『ゴジラ-1.0』山崎貴監督インタビュー

諏訪地域にとって『ゴジラ-1.0』が特別な作品であるとこから「諏訪シネマズ」に認定されました

諏訪シネマズ6号認定式でのあいさつ

素晴らしいロケ地で撮影させていただきました。あの建物を残していただけたことは本当にありがたいです。僕は昭和の時代の映画の撮影をすることが多いのですが、どうしても同じ場所で撮影をすることが多くなってしまうんです。今回、うちの制作スタッフが「まだ映画の撮影で使われていない素晴らしい場所があるのでぜひ見てもらいたい。」ということで、旧岡谷市役所庁舎を見たら、見たこともないような素晴らしい保存状態で、建物の構造が願っていたようなものでした。
新しいものをどんどん造っていくことも大切なことなんですけど、昔からある素晴らしい美しい建物を工夫しながら今に残す、あるいは活用していくことは僕らがこれから考えなくてはいけない大事なことだと思います。そういう意味ではロケという形で使わせていただいたことでご縁が生まれた訳なのですが、願わくば、映画界のためにも、あるいは日本の建築の歴史と資料の発展のために残していってもらいたい。我々がまた撮影に来た時に貸していただければありがたいと思いますし、建物自体も1階の部分と2階の部分、あるいは小さい部屋みたいなところがあるのですが、いろんな撮影ができるような状況になっていまして、それぞれが特徴的というか、非常に個性がありました。かつ、見ただけでもこれは昔からある、というかその時代にお客さんがタイムスリップできるような素晴らしいリアリティを持った建物なのでこれからも残していただきたいなと思います。

 

インタビュー

 

 

 

 

 

Q.旧岡谷市役所庁舎をロケ地にした決め手は何ですか

今回は本当に建物の素晴らしさです。窓の縦横比が現代の建物より細長い感じで、今の規格とは全然違うので、どうしてもそういう建物が今はほとんど残っていないんですよ。窓のバランスがいいのと、外装も内部も素晴らしく、特に1階にはカウンターがあって…という所が決め手です。

Q.旧岡谷市役所庁舎の尺が数分なのかなと思って映画を拝見させていただいたら割と長くて…

結構な尺で、3シーンですからね、ネタバレになるので内容は言えないですけど。地元のエキストラの皆さんにも参加してもらって、いい感じのシーンが撮れました。

Q.岡谷市のお気に入りは何かありますか

岡谷の蒸さないうなぎがすごくおいしかったです。蒸さない関西風の方が好きなんですよ。
諏訪地域って関東風と関西風の中間にあるらしくて、関東風なのか関西風なのかっていうのを結構チェックしてから関西風って書いてあるところに食べに行っていたんですよ。
東京では食べられないんで、岡谷のぱりぱりしたうなぎがお気に入りです。

Q.岡谷または諏訪地域で映画を撮影するならどんな話を撮影されますか

諏訪湖は恐竜が発見されるにしては小さいですよね。でも湖があるってことがやっぱり非常に大きなことだと思うので、それにまつわる何かですよね絶対に。河童は…違うかな。諏訪湖は御神渡りですよね。クリーチャーじゃなくて神様系になっちゃうと中々映画に落とし込めないんですよね。諏訪の湖って神聖なものでしょ。何かなー諏訪湖に沈んでいたUFOを出すとか。沈んでいそうな気がする。数千年前に沈んでいたUFOでどうでしょう。

Q. 松本市美術館での「山崎貴の世界」では絵コンテの多さが印象的でしたが、VFXのためなのでしょうか

美術館に展示していた絵コンテはごく一部ですよ。監督で絵コンテ描くのは樋口真嗣監督かな。樋口監督って元々絵コンテライターとしてのキャリアがすごいある人なので。実写の監督であまり絵コンテ描く人っていないかもしれないですね。
VFXのシーンって現場で撮っただけじゃ終わらなくて、いろんなところにいろんなことをお願いして最終的に仕上げていかなきゃいけないんで、最終的な絵のイメージが見えていないと混乱しちゃうんですよ。どこを作ったらいいのかとか、何を作ったらいいのかとか。VFXの仕事をする以上は最初の基準になるのが絵コンテです。いろんな人たちが共通項で「これを作るんだね」っていうのが分かるベースとなる絵が必要なのでそれは絵コンテを描かざるを得ないんですけど、でもお芝居のところは描かないです。お芝居のところはやっぱり役者さんがその場で見せてくれるものが一番新鮮だしおもしろいんで、絵コンテ描いてがちがちに決めず、自由に動いてもらった方が生き生きとするんで描かないですね。絵コンテがたくさんあるって言うのはVFXがたくさんあるからです(笑)

映画の撮影前に助監督とスーパーバイザーが「絵コンテ」「絵コンテ」ってずっと言っているんですよ。「絵コンテ早くください。」「絵コンテないとできません。」「絵コンテがまだできてないんでボトルネックになってます。」「締め切りもとっくに過ぎています」ってずっと言ってるんで大変なんですけど…仕方ないですよね。絵コンテができて初めて美術部が「じゃあどこまでやるか」「じゃあこっからはCGがやる」とかそういう戦いが始まるんですよね。絵コンテができていないと戦いも始められないんで初めにやらないと怖いんですよ。

今回のゴジラもすんごい描きましたね。そりゃそうですよね、VFXだらけですからね。もう大変でしたよ。描いても描いても終わらなくて。

Q.『ゴジラ-1.0』の旧岡谷市役所庁舎のシーンではどこにVFXが使われたのでしょうか

ちょこちょこっとやっていますけど、でもそんなに使ってないです。もう撮るだけで本当に素晴らしい建物だったのでそこは本当にありがたかったですよ。余計なVFXをやらずに済んだので。
2階の窓を開けてバルーンがバーンとあがるとことかは使っていますけど、全体を通して最もVFXを使わなかったシークエンスです。それはやっぱり建物がちゃんとしているんで後で修正したりとかしなくて済んだっていうのは大きいですよね。

では、旧岡谷市役所庁舎のVFXで苦労したことはあまりないですか

隣にすごくきれいなカノラホールがあったので、窓から見た時に途中まではちゃんと過去なのに、途中から超現代になっているので、その超現代を画面上から消さなきゃいけないのはちょっと大変でしたけどね(笑)中庭もちょっと延長しています。

Q.今回の映画はどこに一番注目して見てほしいですか

全部です。瞬きしないで見てください(笑)

何もない時代というか、本当に全てを失ってしまった日本にゴジラが現れた時に、ほとんど装備がない状態のなかでどうやって人間があれほどの脅威に立ち向かっていくんだろうっていう姿から学べるものは多いんじゃないかなと思います。そこから何かを感じ取ってもらえればいいのかなと思います。こっちでこういうメッセージがあるんですっていう映画ほどつまらないものはないと思うんで、受け取っていただいたものが我々のメッセージだと思います。

Q.撮影に入る時のルーティンワークやパワー食は

パワー食で言うと媚びを売るようでなんですけど、うなぎは大分食べますね。ロケ地が今回、岡谷と浜松と茨城なのですが、まあ茨城はさすがにうなぎはないんですけれど残りふたつのロケ地がうなぎ天国じゃないですか。だからもう、昼の撮影で終わる時とかは夜になったらあらゆるうなぎ屋さんのうなぎ情報を交換して語っていましたね。そうじゃないとやっていけない。うなぎ力を使わないと。
うなぎでロケ地を選んだわけじゃないですよ、うなぎ中心に選んだわけじゃないです(笑)今回のメインロケ地3か所のうち2か所がうなぎ天国だったって言うのは僕的に非常にありがたかったです。撮影中も色んな所に行きましたよ。

Q.『続Always三丁目の夕日』にもゴジラが出てきましたが今回のゴジラと違うところは

あの時に表現できるというかレンダリングできるポリゴン数からはるかに数字があがっているんで、専門的な話になりますけどやっぱり細かさが全然違いますよね。あの時はこんな楽しいことは自分でやらなきゃと思って自分でゴジラを造形したんですよ。今回も自分で作りたかったんですけど、すごいうまい人がいたんで血の涙を流しながら委ねようと思って。ある程度まで作ったものに彼がものすごいディティールを付け加えて、細かなバランスを変えてくれたりしてくれて新しいゴジラができたんですけど、どう考えても自分よりうまいんで腹立たしいですよね(笑)
自分よりはるかにうまいって人を探してくるのは人材を探してくるときのポイントなんです。ある技術をある程度自分で勉強すると、目利きとしてもよくなるんですよね。例えば陶器を作る人がある程度修行を続けると、人間国宝みたいな人がいかにすごいものを作っているかっていうのが分かるようになるじゃないですか。だから自分である程度作れるようになってくると、このゴジラを作った人がどれほどの技術を持っているのかっていうのがすごい分かってくるんですよ。圧倒的なうまさっていうか、どうしてこれができるのか分からないレベルの造形力のある人間が作ってるんで、自信を持ってお送りできるんですけれど、悔しくてしょうがない(笑)
いつか自分の作ったゴジラを出したいと思うんですけど、でもそれは三丁目の夕日の時にやってるんですよね。当時僕の周りに僕よりうまい人いなかったんですよ。世の中にはいたのかもしれないですけれど、俺が作るって言ってだれも反対しないだけの技術は持っていたので。監督だから誰も何も言えなかったのかもしれないけれど(笑)自分で作って、できたゴジラを皆が「CGでもゴジラできるんだねって」言ってすごく喜んでくれていたの見て、これ俺が作ったんだよなあっていう喜びがありました。
三丁目の夕日の時のゴジラは100万ポリゴンくらいあったんですよ。100万ポリゴンを超えるとちょっとコンピューターが動かなくなっちゃったんだけど、今回は数億ポリゴン、3億か4億くらい。だからもう全然、桁が2つ違うんですよ。だから僕が見ても信じられないくらいディティールが複雑になっていて、ある程度拡大しても大丈夫なんです。多分AIが拡大していると思うんですけど、大きくしていってもある程度はAIが補完していってくれるんで、普通はぼけちゃうんですけどでかくしても全然平気なんです。

 

最後に岡谷市のみなさんへメッセージをお願いします

岡谷産の、岡谷でできたシークエンスのある映画なんですよね。ご当地映画と言っても過言じゃない(笑)

岡谷の誇る旧市役所庁舎。本当にありがたく、映画の中盤部分の撮影ができたので確かめに行きながらも、見るというより体験・体感してほしい。劇場で初めて100%、従来の映画になるのでぜひ劇場で見ていただきたいです。


 

 

 

 

 

 

 

監督・脚本・VFX 山崎 貴
<プロフィール>
1964年長野県松本市生まれ。
CGによる高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXの第一人者。
『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』『STAND BY MEドラえもん』等の映画を製作。

 

 

 

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